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企業で求められるプレゼン力。キリン<のどごし生>のプレゼン資料で勉強してみよう! [プレゼン]

キリンのHPで4月6日新発売のビールもどきの雑酒(「のどこし生」)の商品発表のプレゼンが公開されてました。(現在はありません。)下記スライドはその時にダウンロードしたもの。これを題材に、新商品のプレゼンについて考えてみましょう・・・

その前に、ちょっと・・・・

「企業で求められるプレゼン力は、卒論、修論、博論や学会発表なんかでは身につかない。」ことを大学教員は知るべき。企業で行うプレゼンは学会発表等とは目的が違います。学会発表は極論すれば、自論の露呈。実験目的、方法、結果、考察、結言のワンパターン。聴衆をどう動かすか?なんて意識しない。だから、大学人の話は面白くない。最近、大学の先生方は金欲しさに企業を訪れ、共同研究&開発の提案プレゼンをやってるようです。ただ、プレゼンを学会発表と同じ感覚でやるものだから、全然説得力無いというか、面白くないというか、「だから、何を言いたいんだよ」というプレゼン多い。聴くほうもかつての教え子だったりするから、昔の授業風景みたいになっちゃう。

一方、企業では、顧客相手のプレゼンがほとんど。顧客への新製品・新技術の紹介と売り込み、クレーム処理、社内プロジェクトの企画・推進等、他者をいかに振り向かせ、納得していただけるか、がプレゼンの目的になります。社内の技術発表会や顧客へのプレゼンを学会発表と同じように行う技術系社員が多いことに憂慮しています。おっと、営業等の事務屋のプレゼン力は技術屋以下かもしれません。事務屋のプレゼンの特徴は、ビジュアル資料作成の経験の浅さ、「書類を書いて、人前で読む」感覚でやる。だから、OHPやプロジェクターで映すビジュアル資料は、通常業務の書類そのまま。話し方は、その資料を読み上げるだけ。典型的なのは、「・・・・ということです」という表現が多用される。(だから、何なんだよですけど。) さらには、「資料に書いてあるからいいだろう」という無責任感、聴衆(お客さんである場合がほとんど)にどう動いて欲しいのかなんて考えない無意識、これは技術屋にも言えるかも。。。

さて、顧客へのプレゼンは「お客様の問題点の指摘→因果関係の分析(なぜそうなの?)→解決策の提言→解決策の有効性の実証、付加価値・他社との差別化の説明」の構成されるべきです。ポイントは、次の4つ。


1.問題解決の流れを提示する:お客様の問題・課題の提示、解決策の提言、その期待効果の順に説明する。お客様のニーズは何だろう?それを解決するには?そして、解決したらどんないいことがお客様にあるのだろうか?

2.期待成果の訴え:問題・課題を解決した後に発生する「お客様にとっていいこと」を示す。

3.利益性の訴え:どれだけ、お客様によい思いをさせるか?また、他社との比較、差別化を説明したい。(これができるのは当社だけとい主張)

4.新しい目標、戦略の訴え:新しい製品に関連してお客様との関係を、将来にわたりさらに密接にしていきたいと訴える

では、キリンの新製品「のどごし生」のプレゼン資料を見ていきましょう。キリンのマーケティング部新商品開発Gリーダー 山崎徹さんが約9分間プレゼンしてました。さぞや大変だってでしょうね、一番遅れて開発した他社同様の商品の説明は。以下にプレゼンのビジュアル資料とそれぞれに対する私のコメント(→以降の部分)

概観すると、プレゼンの全体構成が貧弱で、適当に集めてきたものを並べた感じ。マーケティング結果、製品の製造方法、広告等は確かに正しいのでしょう。だけど、それらから構成されるプレゼン全体はお客様を動かす力を持ってない。


→表紙には“説得力があり、プレゼンの目的と結論を示すキャッチフレーズ”を使いたい。でもここには「商品概要」というハンコマークがあるだけ。このプレゼンのキャッチフレーズは何だろう???
→生き生きとした副題をつけて、プレゼンの内容を聴衆が想像できるようにするといい

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→このプレゼンのキーワードは、「うまさ」、「ブラウニング製法」、「キリンの太鼓判」。ただ、この段階でこれら3つがプレゼンのキーワードとは聴衆は理解しないだろう。私だってこのプレゼン資料の全体内容を解析してやっとわかった。原料、缶容量、製造工場を記載するより、これらキーワードを印象つけるべきだ。よけいなこと書くから、キーワードがぼける。そもそも製造工場や販売目標なんてキリンの事情でしょ。顧客の視点、お客様にどう動いてほしいのか、考えているのか?
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→目次・内容は、表紙のキャッチフレーズをサポートするものに。これを見れば、プレゼンテーションの流れと内容がわかるものにしたい。目次中の用語にプレゼンテーション中で使用するキーワードを盛り込んでおく。(キーワードを繰り返し使って聴衆の理解を求める)でも、ここにそれは書かれていない。マーケティング用語の羅列。一般消費者に思いをはせているのかどうか大いに疑問。
→このプレゼン内容を見るとマーケティング的にプレゼンが進行するのだとわかる。ターゲット、ポジショニング、コミュニケーション等。 でも、こんな優等生的なプレゼンで(「私、マーケティングを勉強しましたって感じ」)、聴衆(ここではマスコミ関係者、さらには一般消費者)は動くだろうか?
→単に自社製品の説明なら簡単。しかし、顧客ニーズと結びつけるには相応の準備が必要
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→「キリンはこの市場で製品が無いので開発しました」というキリンの事情を新商品発表会で言うなんて的外れ。それよりお客様の抱える問題、もしくはお客様をこう満足させるんだ、という主張をすべきなのに。。。。マーケティングの結果をご披露してどうするのか、セグメントなんてマーケティング用語使わなくたって・・・

→ここでは、お客様の課題・問題点、欲しいものについて説明すべき。なのにマーケティングの結果を示している。キリンは「マーケティングの結果=お客様の声を大切にする」と思われちゃう。
→なんで「価格高感度」なんて表現使うのか?高感度ってなんだ?「安くなきゃ買わないお客様」のことでしょ、おそらく。感度なんて紛らわしい表現はやめよ!でも、わざと紛らわすために使ったのかもね。

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→調査結果の羅列。「価格高感度、すっきり志向」のお客様でなくても持っている購買意識。

→これらターゲット購買層のこれらニーズ(このスライドからは、コストと商品広告がわかるが・・・)に対してキリンがどういう解決策を提示するのか?その説明が無い。

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→この図中に「のどごし生」が一目で目立つように。インパクトがない。

→顧客ニーズ「すっきりしたのどごし、しっかりしたうまさ」はどこにポジショニングされるのだろうか?

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→原料も次のブラウニング製法もお客さんのニーズとどう関連があるのか?希薄。突然、原料、製法が出てきた感じ。

→顧客ニーズ「すっきりしたのどごし、しっかりしたうまさ」と原料(特に大豆たんぱく)の関係がよくわからない。なぜ、大豆たんぱくだとこのニーズが達成できるのか?それは、次のブラウニング製法の説明でも同様。

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→他社ではどうやってるのか?この製法はキリン独自なのか?顧客ニーズ「すっきりしたのどごし、しっかりしたうまさ」を満足して、さらに酒の色をビールっぽく見せるためにこの製法が必要なのか?

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→前のスライドと重複

→他社は着色料入れてるのか?この製法の差別化は?

→発酵技術の説明をお客様は要求しない。ただ、この製品を作れるのはキリンだけと言いたいなら、もっとお客様ニーズの明確化して(こんな色がいいとか、着色料はきらいとか)、それを解決できる製法として説明するならわかるけど。

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→「シズル感」なんて広告業界用語を新製品発表会で使うなんて、キリンは一般消費者を向いているのだろうか?
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→こんなことしかプレゼンできないのか?時間の無駄。
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→大学のマーケティングの教科書に書いてあるような安直な資料。「だから何なんだ?」
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→プレゼンの最後に、3つキーワードを出すなんて、後だしジャンケン。なぜ、この新商品なのか?も含めプレゼンの最初にこれら3つのキーワードを出すべき。
→「キリンが満を持して」というけど、他社に抜かれ最後になったといこと。
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→新商品の発表会でCMタレントを紹介する意味があるのだろうか?

→新しい製品を通じてお客様との関係をさらに密接にして貢献を続けていく、という終わりかたがいい。
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キリンのこの新商品「のどごし生」はまずいので、2度と買いません。ただ、本プレゼン資料にあるように、消費者がキリンに望んでいるのは、「高価格&本格志向」ものです。74%のアンケート回答者が指摘。この市場でブームを巻き起こすような商品を作ってもらいたい。私はキリンのチルドビールのホワイトエールが好きです。こういうビールは日本では少数派ですね。シェア分捕り合戦やってるビール・発泡酒市場では、「高価格&本格志向」ビールに企業として注力するには限界ありでしょう。工場を稼動して、大量生産で利益上げていくには、出荷量が多い一般的なビールで勝負かな?(「とりあえずビール」市場と私は呼んでます)アサヒのスーパードライの成功はマーケティングによるものか、大いに疑問。マーケティングなんて、後からつける言い訳(私見。元 吉本興行の木村常務も講演会で同じこと言ってた)。だって、マーケティング結果をもとに解が出るなら苦労無いじゃん。実際は、解をお客様が分かってなかったり、気づいていないケースが多い。では、どうすればいいのか?日ごろからお客様と対話を重ねるて、相手の心情や欲しいことを探すことでしょう。調査会社のマーケティング結果に頼っていては、お客様との対話はできないし、成功につながらない。お客様が欲しいものを与えるのは簡単。お客様が気づかなかったものを与えれば感動していただける。大切な人へのプレゼントも同様。「何が欲しい?」と聴いて、それをプレゼントすれば、相手は失望しないけど感動はしない。プレゼントの包装を開けるときの「ときめき」をいかに大切にするか?これが相手の心をつかむ方法ではないでしょうか?お金では買えないものです。常に相手のことを意識しているかどうかが問われるんです。

長くなりました。キリンの発展を祈念して本日の講義は終わります。御静聴ありがとう。

追記:学術発表の構成も再考する余地があるでしょう。特に、科学者が一般向けに科学技術のことを説明する際に(大学の初年度学生向けの専門科目の授業も)、その上記プレゼン手法が有用でしょう。大学の授業なんてホント面白くなかったしね・・・・

「学位(ドクター)を持つってことは、説明責任を果たすということ」。学位をこのように考えている人や指導している大学教員はいるのかよ~!学位は自慢するために与えられるものではありません。責任と使命を担うということです。大学院の学生諸君、わかったかね?企業で論文提出で学位を取ろうとしている方々も同様ですよ。

なお、私もドクター(工学博士)を持ってますが、同僚は、「お前は無免許だから、ブラックジャック、いやキリコだ」と呼んでくれてます。ありがとう。

 なお、本講義は以下の本を参考にしています。著者の岩下 貢さんは小生の学部時代の英語スピーチの先生です。リスニングはフランクシナトラ、トニーベネット、ウオルタークロンカイト、レーガン大統領、国弘正雄の方々に学びました。彼らとの思い出はいずれまた

ストラテジック・コミュニケーション〈1〉戦略家への道

ストラテジック・コミュニケーション〈1〉戦略家への道

  • 作者: 岩下 貢
  • 出版社/メーカー: 慶応義塾大学出版会
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本

ストラテジック・コミュニケーション〈2〉戦略的プレゼンテーション

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  • 作者: 岩下 貢
  • 出版社/メーカー: 慶応義塾大学出版会
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本

こういう本がワセダから出ないのがくやしい。

だから、このブログを書いたんだ~。

今日、東京は暑いです。20度超えて、車はクーラー稼動。これじゃ、スキーーも終わりだわ。
 


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コメント 2

Totomo

楽しく拝読しました。正解は無いと思いますが
誤答はあるんですね。

勉強になりました。

プレゼン資料の良しあしはともかく2018年現在もリニューアルして販売していますね。
サイトをみましても、ご指摘の通り独りよがりな広告展開。
最初の一口を目指したとか?おいしさじゃないんだ?
by Totomo (2018-03-08 11:08) 

早稲田大学鋳物研究所スキー部長

ありがとうございます。

答えより、問題意識です。
by 早稲田大学鋳物研究所スキー部長 (2018-03-12 23:31) 

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